一杯のエスプレッソの為にショートトリップ。目的地は「50 COFFEE & ROASTERY」
深谷駅から徒歩で旧中山道へ。
あたかも江戸時代にタイムスリップしたかのような一角があります。
300年以上続いた七ツ梅酒造の跡地に雑貨屋や映画館など、
建物の良さを生かしながら新しいことを始めようとする息吹に包まれていた、不思議な場所。
今回は、誰もがこの場所が好きになり、人に言いたくなるコーヒーのお話。
(今回は、埼玉工業大学教員の本吉裕之が執筆させていただきます)
七ツ梅酒造跡地のタイムトンネル
こちらをくぐると、ノスタルジックな空間が広がります。
高くそびえる酒蔵の煙突を見上げながら、歩みを進めていくと左側の一角に「50」と書かれた看板が。
こちらが「50 COFFEE & ROASTERY(フィフティコーヒー&ロースタリー)」
店の奥にはパイプとつながった大きなシルバーの焙煎機があり、倉庫や研究所のような佇まい。
豆が持つ力を余すことなく焙煎
この焙煎機は、ローリングスマートロースターといい、2019年にリニューアルオープンした際に導入。
県内ではここだけというこの焙煎機は、完全熱風式。
内部循環式の燃焼方式により、焙煎中の酸素の影響を抑え、 コンベクション(熱風を当てて焼くこと)により、豆の加熱ムラを 最小限に抑えることで、豆が持つ力を余すことなく焙煎できるそうです。そして、高速冷却システムは、焙煎が終わった後の化学変化も抑えてくれるとのこと。
高い天井を見上げながらオーダーへ。
スタッフの方から、優しいわかりやすい口調で、コーヒーのことを詳しく教えていただく。
オーナーが運営する別の店舗(LOUTS Café)に通うようになり、弟子入りのような形で働きはじめたそうで、オーナーの「お客様を楽しませようとするスタイルに憧れた」という。
おすすめの豆をフレンチプレスで
エチオピアの「グジ・G1・アルディ」をいう豆をセレクトしていただき、ドリップではなく、フレンチプレスコーヒーをお薦めいただいた。
香りが優しく、味わいとしては酸味が抑えられており、すっと口の中に染み渡るように溶けていく印象。
砂糖を入れていないのに、最後は甘味が。
実は私、学生時代に某コーヒーチェーンで働いており(そのお店の創業者も深谷市出身。そのあのコーヒーチェーン。)その頃を思い出して、エスプレッソをダブルでオーダーさせて頂いた。
エスプレッソって、楽しい!
今から30年ほど前に新橋駅前のお店で働いていた時に、常連さんから教えてもらった飲み方。
・エスプレッソの飲み方は、砂糖を少し多めに入れ(スプーン2杯くらい)かき混ぜることはしない。
・最初は泡。
・そして上から下への味の変化を楽しむ。
・最後は残った砂糖をスプーンですくいながら味わうという。そして、まだ溶け切っていない砂糖をガリガリと頂く、という教え。
昔、アルバイトで得た知識をここで試してみる。
砂糖を多めに入れ、スプーンで混ぜないでそのままいただく。
一口目:香りを楽しみつつ、泡状になったコーヒーの優しい口当たりと甘味。
二口目:エスプレッソ特有の濃い味わいが口の中に広がり、苦味を楽しむ。
濃厚さを味わっていると、ある瞬間から「あれ、果物の甘み?・・・・・」と、味の変化が。
もう一口、もう一口と口に運びつつ、断層のように変わる変化を感じられ、
いつしかエスプレッソと砂糖がおりなす「スイーツ」がそこに誕生していた。
甘味と苦味が混ざり合う極上のスイーツにもなってしまうエスプレッソ。
エスプレッソって、こんなに楽しいものだったとは。学生時代には気がつかなかった。
もしかしたら、この「スイーツ」を味わうために、エスプレッソの苦味と甘味があり、この2つの味わいこそが、エスプレッソの本質なのではなのかもしれない。これはオーナーに話を聞かねば。
この空間が街中にある深谷は、なんて贅沢な場所なのだろうと、コーヒーの香り漂う空間でしばし時を忘れていた。
オーナーにインタビュー
日を改めて、50 COFFEE & ROASTERY代表の五十嵐 智さんにお会いし、お話をお聞きする。
五十嵐さんは、イタリアと日本の公認バリスタの資格を取得され、2006年に「LOUTS Café」をオープン。
その後、コーヒーと向かい合えるお店を新た作ることを求め、2016年にこの七ツ梅酒造跡に「IGARASHI COFFEE」をオープン。
こだわりの熱風式焙煎機を導入し、2019年4月に「50 COFFEE & ROASTERY」へ名前を変更。
名前の由来は「五十嵐」の「五十」から。「海外の方も、数字であれば伝わるので「50」にしました」
目標は「台湾に店舗をオープンさせること」
そして、コーヒーエキス=エスプレッソを多くの人に飲んでほしいと、世界中の豆と向き合っていらっしゃいます。
「コーヒー本来の味と旨味を楽しむには、フレンチプレスの方がオススメです。
豆の油分もドリップの場合、美味しさと一緒にペーパーフィルターなどで取れてしまいますから、
フレンチプレスで味わってほしいですね。
ちなみにイタリアでは、毎日7杯、8杯とエスプレッソを飲みにバールに通う人もいるんですよ」
ええ?!エスプレッソを毎日、そんなに多く?
「エスプレッソって、カフェインが多いようなイメージありませんか?ドリップとは違い、抽出時間が25秒くらい。それに対して、ドリップコーヒーは、4分くらいかかります。その長さがカフェインの量と比例するので、エスプレッソはカフェインの量がそもそも少ないんです。
泡のことをクレマと言うのですが、400種類以上のアロマ成分が含まれていると言われていて、目覚めではなく、眠りを促す効果もあるんですよ」
私が試したエスプレッソの飲みかたについてお聞きすると、
「その通りですね。砂糖を多めにして、混ぜないて味の変化を楽しむんです。苦いまま、無理して飲むことは、コーヒー本来の飲み方では無いんですから。」
「残念ながら、コーヒーを勉強するような機会って、なかなか無いですよね。日本人はコーヒーの飲み方を知らない人が多いのかもしれません。苦い=コーヒーではないんですよ。
イタリアの人は、「マイバール」を持っていて、自分好みのコーヒーを楽しむ場を持つ文化があるんです。日本にもそういった文化を作っていきたいんですよ。」
コーヒーは科学
「その為にも、クオリティが高く、いつも高品質の焙煎技術が必要なので、この焙煎機を使っています。
コーヒーは科学と言っても良いですね。」
驚くことに、0.1℃単位での温度調整の管理がされていて、気温の変化があっても同じクオリティを保たれている。ここまですることで、豆が持つ力を最大限に維持し、それを保つことが出来るのである。
今度、埼工大が持つ分析機器を使って、色々と研究してみましょう!と話は尽きない。
スイーツについてお話を聞くと、
「カラメルソースを作っているのですが、最近やっと完成度が高くなってきたんですよね。同じ分量でも、熱の加え方で味が変わってしまうので、少しずつの分量で何度も作っています。
オレオチーズケーキなど、スイーツは奥さんが作っているんですが、なかなか多くの量が作れなくて。。。お客様が来て、売り切れになっていることが多く、本当に申し訳なく思っています。」
大人気の自家製「オレオチーズケーキ」
「素焚糖プリン」のカラメルは苦味が抑えられていて、コーヒーの味わいの邪魔をすることはなく、人気が高い理由がわかる。
素焚糖(すだきとう)とは、「素」のままじっくり丁寧に「焚」き上げたお砂「糖」から名付けられ、奄美諸島産のさとうきび原料を100%使用した砂糖。
コーヒーとこのスイーツの組み合わせを、ぜひ皆さんにも味わっていただきたい。
きっとそこに優しい笑顔が生まれるはず。
オーナーの五十嵐 智さん。
インタビューの合間にも、顔馴染みのお客様達が笑顔でお店にやってくる。
今日はどんな体調か、どんな思いでこのお店にやってきたのかを想像し、絶妙の間合いを提供されている。
外に出て空を見上げると、酒造の高い煙突が。
五十嵐さんが思い描き、誕生させた空間が深谷に。
一杯のコーヒーを味わうために、深谷・旧中山道へショートトリップ。
きっと、新しい出会いが待っています。
取材・執筆:埼玉工業大学 人間社会学部情報社会学科 准教授 本吉裕之
INFORMATION
50 COFFEE & ROASTERY
■営業時間:11:00~16:00
■定休日:月・火
■住所:埼玉県深谷市深谷9-12 七ツ梅酒造跡地内
■TEL:048-577-4253
■駐車場: 深谷シネマ駐車場 ※七ツ梅酒造跡の裏側には、広めの無料駐車場(商店街無料駐車場)がございます。
■ふかや花園プレミアム・アウトレットからのアクセス→Google Mapの経路情報
※営業時間や定休日、金額などの掲載情報は変更になる場合がございます。あらかじめ各店舗・施設に確認の上、おでかけください。
野菜の楽しさに
何度も訪れたくなるまちへ。
肥沃な土地とお日様のチカラに恵まれ、全国有数の野菜・農業のまちとして知られる、ここ埼玉県深谷市。ベジタブルテーマパーク フカヤは、『関東の台所』とも呼ばれるこのまち全体を「野菜が楽しめるテーマパーク」に見立て、何度でも訪れたくなる観光地となることを目指しています。
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