廃線跡を辿った先にある〜幸せのかたち〜【パンのお店おだしま】
深谷駅から北東に緩いカーブを描く遊歩道をご存知でしょうか。
その道は「日本煉瓦製造株式会社専用鉄道」かつてレンガ工場へ続いた鉄道の跡地。
今は遊歩道(あかね通り)が整備されており、様々な木々や花の香りを楽しみながら15分ほど歩くと、
旧中山道と交差する地点に明治初頭に建てられた深谷常夜燈が現れます。
その目の前にあるのが「パンの店おだしま」です。
(埼玉工業大学教員の本吉裕之が執筆させていただきます)
線路跡地を歩く
専用鉄道線跡の解説板が、道沿いに設置されています。
ゆるやかなカーブを描く「あかね通り」
明治初頭に建てられた常夜燈は、中山道において最大級のもの。
お店が開くのが10時。
ピアノの音色が流れる店内
取材にお伺いした際に、少し早めに着いてしまい外観の写真を撮影していると、中からピアノの音色が。
お店の奥で、誰かが練習しているのかなと思いつつ、少し外でお待ちしてから開店の準備をされているお店へ。
まず驚いたのが、入ってすぐのところに置かれたピアノである。
「ピアノをひくまえに、おみせのひとにこえをかけてください」と書かれた札が置かれている。
お店を切り盛りする奥様の厚美さんへ、先ほどのピアノの音は?とお聞きすると、
「私の練習だったかもしれませんね(笑)最近習い始めて、まだまだこれからですけど。
ちなみに、この人知っていますか?」
と、ご近所に住んでいるというピアニストの方のポスターを見せていただく。
「私がとても好きなピアニストの方で、お店にも流しているんですよ」とCDをセットしていただいた。
澄んだピアノの音色が店内に流れる中、OPENの時間を迎えた。
黄色の壁と、焼きたてのパンの香りと、ピアノの音色が奏でるこの空間は、思わず長居してしまいそうなほど癒される。
平日にも関わらず、お客様がひっきりなしにお越しになられます。
最初のお客様は、会社の同僚の方からいただいたというスコーンを目当てにお越しになっていた。
一度食べて、その味に魅了されたとのこと。
冷凍すれば日持ちしますよという説明をされている中、私が外の看板を撮影してから戻ると、すべて購入済みであった。
早めに私も購入しておかないと、撮影できなくなるパンもあるかもしれないと焦っていると、子供連れの方がその後に続いた。
楽しそうにパンを選びながら、会計を待っている際、お客様に話しかけてみました。
国産小麦や天然酵母など、子供に食べさせるパンとしてこちらのパン屋さんが安心だと聞いて、初めてのご来店とのことでした(お子様のお写真、掲載許可いただきました)
バゲットは国産小麦と自家製レーズン種の酵母。こちらも予約必須。
それは突然始まった!
お客様が続くなか、やっとインタビューをと思ったところ、厚美さんが窓の外を指差して、「わーーー」と手招きをされている。
先ほどご説明いただいたピアニストの小木曽美津子さんがパンを買いにいらっしゃったのである。なんという偶然だろうか。
すると厚美さんが「ピアノ弾いてーー!」と小木曽さんにお願いし、
明らかに動揺されている小木曽さん。笑顔で迎えるお客様達。
そして「ピアノ・ソナタ第14番 月光 第3楽章」を即興で弾いていただいた。
この小さなパン屋さんで突然開催されたピアノ演奏会。
優しいパンの香りと重なり合い、夢のようなステージでした。
このような偶然を惹きつけているのは、厚美さんの人柄であるのは間違いなく、
その場に立ち会ったお客様達からの大きな拍手の中、照れながらパンが入った袋を手に帰られる小木曽さんをお見送りした。
店主の技が光る、宝石のようなパンの数々
「リンゴのタルト」
アーモンドプードルとクロワッサン生地で、しっとり楽しめる絶品。
「パン・オ・ショコラ」
クロワッサンにチョコチップが巻き込まれており、生地の層がとても美しく、そしてパサパサせずに、しっとりとした食感を楽しめます。
その後もお客様がパンを買いにいらっしゃるが、多くの常連さんが次回分の注文をされている。厚美さんもお客様のことをよく理解されていて、コミュニケーションを楽しみつつも、初めてのお客様にも分け隔てなくお声がけをされ、優しく説明をされている姿がありました。
「ミルクトースト」
「洗双糖(せんそうとう)」のクリームを塗ってからトースト。
洗双糖には、カルシウム、カリウム、マグネシウム等のミネラルが含まれていて、糖蜜が含まれていて、どこか昔懐かしい味わいと香りが広がります。
「クロワッサン」
いろいろなお店の個性が一番出るとされるクロワッサン。練り込まれたバターの香りがたまりません。
「クロックムッシュ」
ハム、チーズ、そしてペシャメルソース。ボリュームがあり、お昼はこれで確定。大満足でした。
次から次へとパンが焼かれていますが、すぐになくなってしまうのが人気店であるがゆえ。
「くるみパン」
香ばしい胡桃の食感と、酵母の香りが広がります。
「くるみとチーズ」
ゴーダチーズの濃厚な香りと味わいが、フランスパン生地に溶け込んでいます。
夢を叶えたパン屋さん
お客様の谷間となったタイミングで、やっとインタビューをさせていただいた。
パン専門店やホテルなどで経験を積んだご主人の浩司さんが、独立しこの地にお店を構えたのは2011年12月。
お二人とも深谷出身ではなく、浩司さんは岩手。厚美さんは秩父とのこと。親戚が深谷にいるということもあり、この旧中山道沿いにて夢を実現された。
パンの準備をするために、平日は午前4時に起きてパン作り。
土曜日は、午前2時には起きて仕込みをしないと間に合わないという。
昨今の物価上昇の影響もあり、先日少し値上げをしたそうだが、すべて国産の小麦を用いたパンは地元の方々から支持を集めている。
印象的であった厚美さんのお話。
「本当に私は幸せだと思っているんです。独立してパン屋を開くことができて、そして好きなピアノも置くことができて、お客様にも恵まれ・・・。こんなことを言ったらまずいのかもしれませんが、これからどんどん売り上げを伸ばすというのではなく、このままが続いてくれるだけで、とっても幸せなんです。」
ピアノの音と焼きたてのパンの香りに包まれた厚美さんの笑顔。
そして優しいパンの柔らかさと味わい。
味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚の全てが満たされるパン屋さん。
そして、人をもつなぐ優しさ。
人の数だけしあわせの形があると思いますが、
五感が満たされ、しあわせを分け与えてくれる場が、ここにありました。
取材・執筆:埼玉工業大学 人間社会学部情報社会学科 准教授 本吉裕之
INFORMATION
パンの店 おだしま
■営業時間:10:00~18:00 ※パンがなくなり次第終了となります。
■定休日:日・月
■住所:深谷市原郷2114-10
■TEL:048-501-2763
■駐車場: 斜め前のダイソー駐車場内に、おだしま専用スペースが2台分ございます。
■ふかや花園プレミアム・アウトレットからのアクセス→Google Mapの経路情報 車で21分
※営業時間や定休日、金額などの掲載情報は変更になる場合がございます。あらかじめ各店舗・施設に確認の上、おでかけください。
野菜の楽しさに
何度も訪れたくなるまちへ。
肥沃な土地とお日様のチカラに恵まれ、全国有数の野菜・農業のまちとして知られる、ここ埼玉県深谷市。ベジタブルテーマパーク フカヤは、『関東の台所』とも呼ばれるこのまち全体を「野菜が楽しめるテーマパーク」に見立て、何度でも訪れたくなる観光地となることを目指しています。
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